滋賀県豊郷町にある旧小学校校舎が注目を浴びています。旧喰丸小学校木造校舎保存活用の参考になればと思い京都新聞の記事を紹介します。
旧豊郷小校舎、文化活動拠点へ存在感 京都新聞 2015年11月18日掲載 滋賀北部総局 伊藤恵
13年前に保存をめぐって町長のリコール(解職)運動に発展した滋賀県豊郷町の旧豊郷小校舎が地元で存在感を増している。地元は、注目されるきっかけとなったアニメーションの関連イベントなどを行ってきたが、今後はさらに幅広い文化活動の拠点を目指す。
近江鉄道豊郷駅で今春、中国広東省から訪れた男子高校生に出会った。日本のアニメ「けいおん!」シリーズの舞台とされる旧豊郷小への「聖地巡礼」を果たし、「両親が京都で買い物などしている間に、1人で豊郷に来た。あの学校が本当にあった」と満足げだった。アニメは放送終了から5年、翌年の映画公開からも4年近くが経つが、いまだにファンを引きつける旧豊郷小の力に驚いた。
校舎は1935年、旧豊郷村出身の実業家古川鉄治郎が私財を投じ、米国出身の建築家ヴォーリズの設計で建てられた。全国的に有名になったのは2002年。老朽化で耐震工事が必要となり、建て替え計画が持ち上がったが、旧校舎保存を訴える住民の反対運動や町長リコール運動が活発化。町は一転、校舎の保存を決めたものの、翌年、リコールが成立(町長は出直し選で当選)した。
旧校舎は09年から、町立図書館などが入った公共施設として耐震工事を経てリニューアルオープン。無料で見学ができるほか、地元のボランティア「扇会」が、建築の魅力などを解説するツアーも行っている。
重厚な建築が若者の注目を浴びるきっかけになったのは、09年4月にテレビ放送が始まった「けいおん!」シリーズ。放送直後から、主人公たちが通う架空の高校の外観や内装が旧豊郷小にそっくりと話題になった。来場者は減っているものの、今も全国や海外からファンが訪れている。
アニメ人気を受けて始まり、定着しているイベントもある。同町商工会が11年から開いている「とよさと軽音楽甲子園」。今年で5回目を迎え、応募チームは初回の31組から今年は71組に増えた。1日の滋賀県予選で、高校生たちが熱を込めて演奏する様子は、「けいおん!」をほとんど知らなくても、思わず応援したくなる迫力があった。
「甲子園」のほかにも、映画撮影や、地元の子どもたちが楽しめるハロウィーンの仮装イベントなど、趣ある建物での表現活動を楽しむ人を町は広く受け入れている。若者たちの「聖地巡礼」行動を研究する岡本健奈良県立大准教授は旧豊郷小を「面白い取り組みや人を大切にし、表現の場などを提供する『文化のふ化器』の役割を担っている」と評価する。
さまざまな人にとって文化拠点となる可能性を秘めた旧豊郷小校舎。地域住民と外から訪れる人の両方のエネルギーを生かした今後の進化に期待したい。